北京
PM2.577
23/19
特別ゲスト:王衆一(映畫研究家、『人民中國』編集長)
聞き手:王小燕
(左)中村高寛監督(右)王衆一さん
今回は作品の上映交流會で北京を訪れたドキュメンタリー映畫監督の中村高寛さんにお話を伺います。
去年の夏、中村監督はその前年に日本で公開された映畫第二作「禪と骨」の上映交流會で北京を訪れました。
前作「ヨコハマメリー」では、「メリー」という女性にまつわる都市伝説にフォーカスすることで、生まれ故郷、橫浜の戦後史に迫っていました。これに対して、「禪と骨」ではアメリカ人の父と日本人の母との間に橫浜で生まれ育ったヘンリ・ミトワさん( 1918〜2012)の生涯を追っていました。
(左)「ヨコハマメリー」ポスター(右)北京の上映交流會會場外に貼られた「禪と骨」のポスター
ヘンリ・ミトワは1940年に父親を探しに米國にわたり、太平洋戦爭の勃発で米國の日本人収容所に入れられ、戦後、家族を連れて日本に再び帰國し、晩年は京都・天龍寺の禪僧として過ごしていました。しかし、そんなミトワは80歳を目前に、突然、童謡「赤い靴」の映畫化という夢を持つようになります。家族にもしっかり理解してもらえなかった夢ですが、ミトワはその実現のために生涯をかけて奔走を始めました。この映畫の夢にはミトワのどのような思いがこめられているのか。ミトワの波亂萬丈の人生には、どのような日米交流の歴史が映し出されているのか。心の葛藤だけではなく、生點しいぶつかり合いの場面も含めて、中村監督はカメラで記録しました。
ところで、この日、映畫交流會に出席した中村監督は流暢な中國語を使って挨拶をしました。中國で開かれた國際ドキュメンタリー映畫祭などからも良くゲストとして招かれる中村監督ですが、実は北京電影學院で2年間留學したことがあります。
映畫との出會いは十代のとき。「友達がいなくて、映畫ばかり見ていた」という「寂しい、悲しい」思い出を笑いながら振り返りました。そして、映畫を仕事にしたのは、「映畫ばかり見て人生が過ごせたらどんなに良いかと思っていたが、社會人にならざるをえない時が來てしまった。その時、もう映畫という選択肢しかなかった」と苦笑いしていました。
第五世代監督の代表作(左)紅高梁(張蕓謀監督)(右)黃土地(陳凱歌監督)
しかし、少年時代「知らない人たちが映畫館に集まって、同じ映畫を見て同じところで笑ったりすると、不思議な一體感が味わえた」體験は、今も自分が映畫を作る際に再現したいと思っているそうです。
ところで、日本の映畫撮影所で助監督を経て、自分でも作品を作ってみたいという自我が芽生えたときに、若き中村さんは大きな悩みを抱えるようになりました。その悩みとは、「では、自分はいったい何を作ればよいか」ということでした。その時に、彼が行動に出たのは、24時間仕事に沒頭していたそれまでの生活に別れを告げ、もう一度學生に戻ることでした。向かった先は、中國の第五世代監督を數多く育てた北京電影學院でした。少年時代、映畫をエンタメとしてしか見ていなかった自分が中國映畫祭で、第五世代監督の作品に觸れ、「映畫は、ここまで自分の思想を表現することができるものなのだ」と、強いインパクトを受けたためだと言います。
ところで、20世紀から21世紀へ変わろうとする中國の首都北京では、ドキュメンタリー映畫はまだまだ、専門的な機材が使える一部の人しか作ることができない高嶺の花でした。しかし、その一方、機材や技術の変化を背景に、新しい動きが醸成されつつありました。中村監督は、北京電影學院の授業では、貪るように世界各國のドキュメンタリー映像作品から栄養を吸収していました。ドキュメンタリー映畫とは何かを問いつつ、考え方をどんどん深め、「ヨコハマメリー」の題材を暖めていました。
今回のインタビューには、映畫研究家で、日本語月刊誌編集長の王衆一さんに特別ゲストにおいでいただきました。ぜひお聞きください。
【プロフィール】
中村高寛(なかむら・たかゆき)さん
1975年、神奈川県生まれ。1997年に松竹大船撮影所よりキャリアをスタート。李纓監督の『味』(2003年)、『靖國(YASUKUNI)』(2008年)で助監督。2006年に映畫『ヨコハマメリー』で監督デビュー、橫浜文化賞蕓術文化奨勵賞、文化庁記録映畫部門優秀賞、ヨコハマ映畫祭新人監督賞・審查員特別賞、藤本賞新人賞など11の賞を受賞。また、NHKハイビジョン特集など、テレビドキュメンタリーも多數手がけている。その他、『キネマ旬報』でエッセイ「黃金町ブルース」を連載(2010‒2016年)。2017年、映畫第2作となる『禪と骨』が公開。
主な著書:
『ヨコハマメリー:かつて白化粧の老娼婦がいた』、中村高寛著、河出書房新社 (2017/8/28)
この番組をお聞きになってのご意見やご感想をぜひお聞かせください。メールアドレスはnihao2180@cri.com.cn、お手紙は【郵便番號100040 中國北京市石景山路甲16號中國國際放送局日本語部】もしくは【〒152-8691 東京都目黒郵便局私書箱78號 中國國際放送局東京支局】までにお願いいたします。皆さんからのメールやお便りをお待ちしております。